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アスベスト調査分析について

アスベスト分析には、アスベストの有無を調べる「定性分析」と、アスベストの具体的な含有率を測定する「定量分析」の2種類があります。アスベストの有無を明らかにする定性分析は、管理する建物の価値を判断したい場合などに向いている分析方法です。一方で、建材にアスベストの含有が確認される場合は定量分析による含有率の判定が必要です。※石綿障害予防規則第3条の規定による

■石綿障害予防規則の事前調査

石綿は、肺がんや中皮腫など重度の健康障害を及ぼす有害性を有するものです。ILO (国際労働機関)では、「石綿の使用における安全に関する条約」(第 162 号)が採択されており、我が国でも同条約を批准しているなど、国際的にも、石綿による労働者の健康障害の防止が強く求められています。 石綿障害予防規則(以下「石綿則」という。)第3条第1項では、事業者は、建築物 又は工作物(以下「建築物等」という。)の解体、破砕等の作業(以下「解体等の作業」 という。)を行うときは、石綿等による労働者の健康障害を防止するため、あらかじめ、当該建築物等について、石綿等の使用の有無を目視、設計図書等(以下「設計図書等」 という。)により調査することが規定されています。また、石綿則第3条第2項に、事業者は、同条第1項の調査を行ったにもかかわらず、当該建築物等について、石綿等の使用の有無が明らかとならなかったときは、石綿等の使用の有無を分析により調査することが規定されています。なお、石綿等の使用の有無を分析により調査するとは、石綿等がその重量の 0.1%を 超えて含有するか否かについて分析を行うものです。 石綿とは、繊維状を呈しているアクチノライト、アモサイト、アンソフィライト、ク リソタイル、クロシドライト及びトレモライト(以下「クリソタイル等」という。)を指します。また、石綿含有物とは、石綿をその重量の 0.1%を超えて含有する製剤その他の物のことをいい、塊状の岩石は含みません。 ただし、塊状の岩石であっても、例えば蛇紋岩系左官用モルタル混和材のように、これを微細に粉砕することにより繊維状を呈するクリソタイル等が発生し、その含有率が微細に粉砕された岩石の重量の 0.1%を超えた場合は、製造等の禁止の対象となります。

■アスベスト分析「定性分析」について

定性分析は、「アスベストの含有の有無を確認するための分析方法」であり、どんな種類のアスベストが含有されているかを分析します。

  • 定性分析方法1(偏光顕微鏡法)

【分析の流れ】

  1. 試料を受け取ったら肉眼で試料の全体をよく観察し、色や材質を記録する。
  2. 必要であれば灰化、酸処理、浮遊沈降による非アスベスト成分の除去を行う(試料調 製)。
  3. 調製した試料又は未処理の試料を肉眼と実体顕微鏡で詳細に観察し、試料の種類や前 処理の必要性の有無を確認する。
  4. 前処理が必要な場合は適切な前処理を行う。
  5. 試料を実体顕微鏡で観察し、アスベストの可能性がある繊維を探して代表的なものを 取り出し、偏光顕微鏡用の標本を作製する。
  6. 標本を偏光顕微鏡で観察し、形態、光学的性質からアスベストの同定を行う。
  7. 調べた繊維がいずれもアスベストではなかった場合、または試料から実体顕微鏡で確 認できる大きさの繊維が見つからなかった場合は、無作為に分取した試料で偏光顕微 鏡用の標本を作製し、実体顕微鏡では見えない微細なアスベスト繊維を探す。

留意点:試料調製と前処理の違いについて

試料調製は顕微鏡観察に先立って、試料 の大部分を構成する非アスベスト成分を除去する操作であり、顕微鏡観察で繊 維が検出されやすいようにすることが目的です。前処理は実体顕微鏡観察の後で試料から繊維を取り出したり繊維から付着物を取り除いたりする操作で、偏光顕微鏡観察を容易にするために行われます。いずれも必須の手順ではなく、 必要に応じて行われます。

  • 定性分析方法2(X 線回析分析法・位相差分散顕微鏡法)

分析対象の建材等から適切な量の試料を採取し、当該建材の形状や共存物質によって

研削、粉砕、加熱等の処理を行った後、一次分析試料を調製します。

次に、X 線回折分析法用試料として、一次分析試料をぎ酸で処理して、二次分析試料

を調製します。調製した二次分析試料を用いて、X 線回折分析法による定性分析を実施す

るとともに、一次分析試料を用いて、位相差・分散顕微鏡を使用して分散染色分析法に

よる定性分析を実施します。

X 線回折分析法による定性分析結果及び分散染色分析法による定性分析結果から、判

定基準に基づいてアスベスト含有の有無を判定します。

なお、分析用試料にアスベストが含有しているか否かについての X 線回折分析法による定性分析の結果、バーミキュライトの回折ピークが認められた吹付け材については、吹き付けバーミキュライトを対象とした定性分析方法により分析を行ないます。

なお、本法は、JIS A 1481-2 をベースとしつつも、その一部を修正し、また、JIS A

1481-2 を単に補足するのではなく、分析手順等が本書の内容で完結するよう解説して

います。そのため、石綿障害予防規則に基づく分析は、JIS A 1481-2 ではなく、本書を

参照して行う必要がある。

  •  定性分析方法3(電子顕微鏡法)

定性分析方法1(偏光顕微鏡法)あるいは定性分析方法2(X 線回折分析法・位相差

分散顕微鏡法)によって分析した結果、アスベストの確認が難しいときは電子顕微鏡に

よるアスベスト繊維の同定等が推奨されています。本法は、そのような場合に用いられる

走査電子顕微鏡によるアスベストの定性分析方法です。定性分析方法1あるいは定性

分析方法2でアスベストの存在が疑われるが最終確認が難しい建材試料について、本法

でアスベストが確認された場合はアスベスト含有あり、確認されなければアスベスト含

有なしと判定できます。しかし、本法のみによりアスベスト含有なしの判定はできません。電子顕微鏡には、走査型と透過型の2つの型があるが、ここでは走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて建材中のアスベストを定性分析する方法について述べます。走査電子顕微鏡は、光学顕微鏡の実体顕微鏡に似ていて、透過電子顕微鏡より観察標本の作製や操作が容易です。試料は塊状(バルク)のままでよく、試料粒

子の形や試料表面の形態などを観察するのに適しています。しかし、電子線の光路は、基

本的に全て真空にする必要があることや、荷電粒子である電子は、試料にダメージを与

えやすいなど、電子顕微鏡に関する基本特性の理解は不可欠です。

光源の電子銃から発生した電子線を細く絞って試料表面を走査すると、試料表面から 電子や電磁波が逐次発生します。試料表面の凹凸などの構造に対応して発生する2次電子 あるいは反射電子を検出器で受けて、その強度変化を時系列の電気信号に変換し、その 輝度の変調をモニター画面(ブラウン管や液晶画面)に表示したのが SEM 像です。試 料表面の構造などが拡大像として観察できます。SEM 像の拡大倍率は、試料上の縦または 横方向の走査距離とモニター画面の対応する縦または横方向距離の比になります。試料に電子線を照射すると特性 X 線が発生します。その特性 X 線を検出して分光すると 試料表面付近の元素分析(元素の種類と量、および分布)ができます。試料からの特性 X 線の検出・分光に半導体検出器(SSD)を用いたのがエネルギー分散型X線分析器(EDX) です。EDX を備えた SEM(SEM-EDX)を分析走査電子顕微鏡(ASEM: Analytical Scanning Electron Microscope)と呼びます。なお、結晶を用いて分光する波長分散型X線分析器を備えたSEM装置は EPMA(Electron Probe Micro-Analyzer)と呼び、ASEMより広い試料領域の高精度の元素分析に用いられています。通常のアスベストの定性分析には、EDX を装着したASEM が用いられます。ASEMによるアスベストの定性分析では、繊維の形態と元素組成の2つの情報から、アスベストであ るか否かを判定することになります。

■アスベスト分析「定量分析」について

定量分析は、「アスベスト含有が確認された試料で含有率を確認するための分析方法」です。そのため、定性分析でアスベストが検出されなかった試料や、定性分析のみご依頼の試料については定量分析を実施しません。定性分析でアスベストが検出された場合、規制値である0.1%を超過している可能性が高いため、アスベスト含有建材として適切な措置を講じれば、必ずしも定量分析によるアスベストの含有率を求める必要は無いとされています。

  •  定量分析方法1(X 線回折分析法)

この方法は、『アスベスト含有』と判定された試料について、X 線回折分析方法によって、アスベスト含有率(質量分率)(以下“アスベスト 含有率”という)を定量する方法です。『アスベスト含有』と判定する過程において、明らかにアスベスト含有率が高い(例えば 5%以上)と判定した場合は、前処理作業を実施せず、一次分析試料を直接使用してアスベストの定量分析ができます。アスベスト含有建材等のアスベスト含有率の定量分析は指定の手順に従って実施します。ただし、天然鉱物中に不純物として含有するおそれがあるアスベストの分析については、適用されません。なお、本法は、JIS A 1481-3 をベースとしつつも、その一部を修正し、また、JIS A 1481-3を単に補足するのではなく、分析手順等が本書の内容で完結するよう解説しています。そのため、石綿障害予防規則に基づく分析は、JIS A 1481-3ではなく、本書を参照して行う必要があります。

留意点:アスベストが不純物として含有するおそれのある天然鉱物中のアスベスト含有率の具体的な分析方法として、『天然鉱物中の石綿含有率の分析方法の検 討結果報告書』(平成 18 年 12 月、(社)日本作業環境測定協会(第8章や 厚生労働省ホームページに掲載))があります。

  • 定量分析方法2(偏光顕微鏡法)

JIS A 1481-4 による定量分析は、アスベストが検出されていてアスベスト濃度がおおむね 5%より低い試料のアスベスト濃度を定量することを意図しています。日本国内において、商業的に生産された製品に0.1%以下のアスベストを意図的に添加した例はないことから、製品に産業利用されていたアスベスト(クリソタイル、アモサイト、クロ シドライト)が含まれていた場合は 0.1%を超えていることが明らかなので、意図的に添加したアスベストの場合、石綿則等国内法令の規制対象(重量比 0.1%超)であることを判断するに当たっては、それ以上の定量は必要ないとされています。ただし、トレモライト、アクチノライト、アンソフィライトはロックウール吹付け材などに意図的に添加されている 場合と、水練り保温材やバーミキュライト吹付け材などに不純物として非意図的に含有されている場合の両方がありえます。クリソタイルについても、蛇紋石が使用されている場合やセピオライトが使用されている場合などには不純物として含有される可能性があります。JIS A 1481-4 では、灰化・酸処理・浮遊沈降よって試料を減量した後、残渣中のア スベストの含有濃度を求めて含有量を算出します。残渣中のアスベスト含有量を求める方 法としては目視定量(偏光顕微鏡、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡)、ポイントカウント(偏光顕微鏡、走査型電子顕微鏡)、繊維計測による定量(走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡)があります。

■アスベスト分析にかかる期間・費用について

アスベスト3種 (アモサイト、クリソタイル、クロシ ドライト)のみ分析の場合、目安1~2週間前後で調査ができます。

  • 新規分析

再分析方法:JIS A 1481 (X線回折法及びアスベスト6種(アモサイト、クリ ソタイル、クロシドライト、アクチノライト、アンソ フィライト、トレモライト)の分散染色法)

定性分析(含有判定)費用 【税別/1検体】:50,000円

定量分析(含有量測定)費用 【税別/1検体】:30,000円

  • JIS A 1481

再分析方法:JIS A 1481 (アスベスト3種(アクチノライト、アンソフィライ ト、トレモライト)のみの分散染色法)

定性分析(含有判定)費用 【税別/1検体】:28,000円

定量分析(含有量測定)費用 【税別/1検体】:30,000円

  • 基安化第06220001号

再分析方法:JIS A 1481 (アスベスト3種(アクチノライト、アンソフィライ ト、トレモライト)のみの分散染色法)

定性分析(含有判定)費用 【税別/1検体】:28,000円

定量分析(含有量測定)費用 【税別/1検体】:30,000円

  • 基発188号

再分析方法:JIS A 1481 (X線回折法及びアスベスト3種(アクチノライト、ア ンソフィライト、トレモライト)のみの分散染色法)

定性分析(含有判定)費用 【税別/1検体】:40,000円

定量分析(含有量測定)費用 【税別/1検体】:30,000円