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アスベスト調査義務について

■アスベストとは?

アスベストは天然の繊維状の鉱物で、石綿(いしわた、せきめん)とも呼ばれています。その繊維が極めて細く、熱や摩擦等に強いため、建設資材の他にも様々な工業製品に使われてきました。また、比較的安価であることも幅広く建築物に使用された理由の1つです。しかし、その繊維が極めて細かいために、飛散しやすい吹付け石綿などの除去等において所要の措置を行わないと石綿が飛散して人が 吸入してしまうおそれがあります。空気中に浮遊するアスベスト繊維を吸入すると、肺がんや中皮腫などの重篤な疾患が発症するおそれがあります。以前はビル等の建築工事において、保温断熱の目的で石綿を吹き付ける作業が行われていましたが、昭和50年に原則禁止とされました。その後も、防音材、断熱材、保温材などで使用されましたが、現在では、原則として製造等が禁止されています。禁止されている現在問題となっていることが、過去にアスベストを使用した建築物等の解体やリフォームを行う際に、そのアスベストが飛散することです。そのため、解体やリフォームを行う際は、事前に設計図等による把握とともに目視調査が必要とされています。このような調査に関しては、日々法律が改定されており、2021年4月から石綿の事前調査は義務化されました。2022年4月からは、解体工事部分の床面積が80平米以上の工事、請負金額が100万円以上の改修工事については、事前調査結果の労働基準監督署への電子届出が必要となります。2023年10月からは事前調査は厚生労働大臣が定める講習を修了した者等が行うことが義務づけられるとされています。

■事前調査について

建築物の所有者はアスベスト対策が必要となります。不動産取引時にはアスベスト調査が必要となり、石綿則(10条4)により、2以上の事業者に貸した建築物の共有部分のアスベスト対策は建築物所有者の義務になります。調査義務については、大気汚染防止法の事前調査、労働安全衛生法関連の事前調査、建設リサイクル法における建設資材の付着物調査を行う義務がありますが、事前のアスベスト調査でこれを代用できます。また、多くの地方公共団体ではアスベスト対策に対して助成金を出しており、建築物の各使用段階でいずれはアスベスト調査が必要となります。アスベストは2006年に 0.1% を超えて含有する物の製造・使用等が全面禁止されましたが、それまでの期間に建築された建物は、アスベストを含有する製品が使用された可能性があります。

下記にて、使用段階別に詳細を記載します。

  • 不動産取引時

不動産取引時にはアスベスト調査が必要となります。

・不動産鑑定評価

建築物の鑑定評価事項に「石綿等の有害物質」があります。

・投資用不動産の取引や企業買収等での資産評価

デューディリジェンス(投資判断のための調査)において、建物環境リスク評価の項目でアスベストの有無を明示する必要があります。

・建築物の売買等の際の重要事項(宅地建物取引業法)

アスベスト調査の結果がある場合には調査結果の内容を説明する必要があります。

・住宅性能表示(住宅の品質確保の促進等に関する法律)

既存住宅の性能表示をする場合、空気環境の項目にアスベスト含有建材の有無があります。

  • 日常使用(維持管理期間)

補助金制度のある地方公共団体では、調査・除去に助成があります。

・資産除去債務の評価(企業会計基準)

不動産評価で原状回復に必要な アスベストの処分費用を負債と して評価する必要があります。

・定期調査報告(建築基準法)

特殊建築物などの定期調査で、吹付けアスベスト等の使用状況、劣化の状況などを調査する必要があります。

・土地工作物責任 (民法 717 条)による 損害賠償請求

建築物の利用者がアスベストばく露により健康障害を生じた場合、損害賠償請求に対し、アスベストの存在を確認する必要があります。

・石綿障害予防規則による飛散防止対策

損傷、劣化等した吹付けアスベスト等は除去、封じ込め、囲い込み等の飛散防止対策を行う必要があります。

  • 解体・改修時

解体時には事前調査が義務付けられています。

・大気汚染防止法の事前調査

建築物の解体、改造、補修を行うにあたり、アスベストの使用を事前に調査する必要があります。

・労働安全衛生法関連の事前調査

建築物の解体等の作業でアスベスト等の使用の有無を事前に調査する必要があります。

・建設リサイクル法における建設資材の付着物調査

コンクリート、アスファルト・コンクリート等に付着したアスベストを事前に調査することが義務付けられています。

■2021年4月から石綿の事前調査義務化の内容

吹付石綿や石綿を含む保温材などの除去や封じ込め作業を行う際は、工事を行う14日前までに労働基準監督署へ計画届を提出し、吹付石綿や石綿を含む保温材の除去工事の際は、除去作業が終わって現場の隔離を解く前に、資格者による石綿の取り残しがないことの確認が義務付けられます。また、石綿が含まれる解体・改修工事は、作業の実施状況を写真等で記録し、3年間保存することが義務づけられます。また、施主も2021年4月1日から事前調査が適切に行えるように情報提供に配慮する義務が生じ、石綿除去が必要になった場合、工事費用や工期、作業方法など、法令を遵守して工事ができる配慮が義務となります。スレート屋根や仕上塗材などを塗装やカバー工法で行う際は、石綿を含む既存の材料に損傷を及ぼさない施工方法であれば、届出や施工時の隔離、作業記録などは不要です。しかし。今回の改正内容を含め、事前調査や届出等の石綿障害予防規則に規定する措置を怠った場合、罰則規定があるのため適切に対応をしていく必要があります。罰則規定については、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金となります。

■アスベスト対策について

建築物の所有者として注意しなければならないこととしては、まずは建築物の利用者がアスベストにばく露しないようにすることが最優先となります。テナントに貸した共有部分のアスベスト対策が必要となり、不動産取引時にはアスベスト調査に結果が求められる可能性が多いにあります。また、解体時だけではなく、改修時にもアスベスト調査をして適正な処理、処分を行うことが必要となります。補助金制度のある地方公共団体では補助金で調査が可能のため、調査を依頼する前に地方公共団体に確認をしてみるといいでしょう。

アスベストが使用されているか不明な場合は、地方公共団体や建築設計事務所や設備業者、工務店、調査会社に相談してみるといいです。その後、調査専門家に調査を依頼となります。アスベスト調査には専門の資格があり、その資格者もしくは資格者がいる業者に依頼が安心です。自ら独自の知識により確認したりするとアスベストにばく露する危険性や、図面等では確認ができない見落としがちな箇所にアスベストが使用されているということが多くありますので注意が必要です。

調査の流れとしては、①図面調査、②現地調査・サンプリング、③調査結果報告書作成、④調査結果報告書受理・保管、⑤改修・解体時に活用となります。調査結果により、飛散するアスベストがない(アスベストの含有率が0.1%以下)と判断された場合は、引き続き建物の使用が可能となります。飛散するアスベストがあると判断された場合は、早急に対策工事を行う必要があります。

■アスベスト調査専門資格について

大気汚染防止法、石綿障害予防規則に基づくアスベストの「事前調査」は、厚生労働省の通達において、「建築物石綿含有建材調査者、石綿作業主任者技能講習修了者のうち石綿等の除去等の作業の経験を有する者及び日本アスベスト調査診断協会に登録された者」など石綿に関し一定の知見を有し、的確な判断ができる者が行うとされています。

  • 石綿作業主任者(厚生労働省)

石綿を製造または取扱う作業の主任者で、事業者により選任され、石綿による身体的な被害防止の指揮・監督を行う人となります。石綿作業主任者は、国家資格のひとつで、講習を受講するだけで取得できるものとなります。

  • アスベスト診断士(一般社団法人 JATI協会)

アスベストが使用されている箇所の診断、使用されているアスベストの処理の必要有無の判断、アスベストが含まれている製品などの処理工事に関する工事の適正チェックを主に行います。アスベスト診断士の資格保有者は、習得した知識にてアスベスト含有製品などの処理に携わる労働者に教育を行うこともできます。一般社団法人JATI協会が開催する3日間の「アスベスト診断士養成研修会」に参加し試験に合格することで取得できる資格となります。

  • 建築物石綿含有建材調査者(国土交通省)

資格の中で最も重要視されている国土交通省発足の資格です。建築物の通常の使用状態における石綿含有建材の使用実態を的確かつ効率的に把握するため、中立かつ公正に正確な調査を行うことができる建築物石綿含有建材調査者の育成を図ることを目的として定められたものです。2日間の座学を通じ関係法令や石綿の関連疾患とリスク、建築物の構造・建材等に関する知識と、通常の使用状態における建築物の石綿含有建材に関する調査に加え、解体作業等においての事前調査にも対応した知識を習得し、講義終了後の筆記試験に合格すると『一般建築物石綿含有建材調査者』の修了証明書が付与されます。

  • 酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者(厚生労働省)

トンネルや下水道などの酸素欠乏・硫化水素中毒危険作業場所に係る作業で、①酸素欠乏等の空気を吸入しないように、作業方法を決定し、労働者を指揮し、②作業を行う場所の空気中の酸素及び硫化水素の濃度を測定し、③測定器具、換気装置、空気呼吸器等その他労働者が酸素欠乏症等にかかることを防止するための器具または設備を点検、④空気呼吸器等の使用状況の監視を行う責任者です。公益社団法人東京労働基準協会連合会で開催している酸素欠乏硫化水素危険作業主任者技能講習の修了試験に合格すると、原則として当日修了証が交付されます。

  •  作業環境測定士(厚生労働省)

「作業環境測定士」とは、「第1種作業環境測定士および第2種作業環境測定士をいう」と定義されているとともに、「第1種作業環境測定士」は、「厚生労働大臣の登録を受け、指定作業場について作業環境測定の業務を行うほか、第1種作業環境測定士の名称を用いて事業場における作業環境測定の業務を行う者をいう」と定義されています。第1種作業環境測定士については、登録の区分として、「鉱物性粉じん」「放射性物質」「特定化学物質」「金属類」「有機溶剤」の5種類の区分があり、それぞれの登録を受けた区分ごとに作業環境測定の業務の全部が行えます。第2種作業環境測定士については、作業環境測定の業務のうち、デザイン、サンプリングおよび簡易測定器を用いた分析(解析を含む)が行えます。作業環境測定士の資格要件は、作業環境測定法ならびに作業環境測定法施行令および作業環境測定法施行規則その他の命令で規定されていますが、原則として「作業環境測定士試験に合格し、かつ、都道府県労働局長または厚生労働大臣もしくは都道府県労働局長の指定する者が行う講習を修了した者その他これと同等以上の能力を有すると認められる者で、厚生労働省令で定めるもの」とされています。

■アスベスト調査における助成金について

補助金制度のある地方公共団体では、補助金が支給されます。アスベストがあるかないかの調査に出向くところから補助金の対象としている地方公共団体もあります。吹付けアスベスト等が施工されている恐れのある建築物で、調査の結果、吹付けアスベスト等がなかった場合でも、調査にかかった費用は支給されます。

  • 事業の内容

建築物の吹付け材について行うアスベスト含有の有無に係る調査

  • 対象建築物

吹付けアスベスト等が施工されている恐れのある建築物(アスベスト含有調査で補助対象としているのは、吹付け材のうち、アスベスト含有の恐れがあるものであり、具体的には、吹付けアスベスト、アスベスト含有吹付けロックウール、吹付けバーミキュライト、吹付けパーライト等です。)

  • 対象とする費用内容

対象建築物の所有者等が行う、吹付け材のアスベスト含有調査に要する費用

  •  交付額

限度額は原則として25万円 / 棟。(民間事業者 等が実施する場合は地方公共団体を経由)